平成5年10月19日 建物明渡等請求事件 第三小法廷判決
ポイントは?
家の建築工事の請負契約では、当事者同士で契約(特約)が無い限りは、完成した家の所有権は材料(木造家屋なら木材など)を提供している側が所有権を持つことになります。
通常は、家を建築する業者側が材料を提供するのが普通なので、完成した家は業者側が所有権を持つことになります。そして、業者側が注文者に家を引き渡すことで、注文者に所有権が移る訳です。業者側がきちんと家を完成させて、家の引き渡しもきちんとする限りはこれで問題は何も起きません。ですが、これでは家を注文する側としては万が一のことを考えると不安を覚える場合もあると思います。そこで、これとは違う取り決めを当事者間ですることは自由になっています。
今回のマンガの事例では、パン田さんとハムちゃん工務店は完成したものは、家の一部であっても注文者であるパン田さんが所有権を持つことになるという契約(特約)を結んでいたのです。これだけであれば問題は簡単なのですが、今回の事例では、パン田さんから家の建築を依頼されたハムちゃん工務店がカラス田工務店に全てを丸投げする形で下請に出していて、更にハムちゃん工務店が倒産してしまったことから問題が複雑化してしまったのです。
パン田さんとハムちゃん工務店の間では、所有権をどちらが持つかについて契約をしていましたが、ハムちゃん工務店の下請けであるカラス田工務店とは契約をしていません。となると、建築材料を提供していたカラス田工務店が家の所有権を持つことになるか、所有権を得られないとしても、建築途中の一部完成部分の所有権が失われたことで償金請求が出来るのではないかと争いになったのです。
判決では、カラス田工務店とハムちゃん工務店の間の下請契約は、大元となるパン田さんとハムちゃん工務店の請負契約(元請契約)があることを前提にしたものである以上は、パン田さんとハムちゃん工務店の契約内容にカラス田さんが従う必要があると判断しました。というわけで、パン田さんとハムちゃん工務店の間では、完成したものが一部だけでもその所有権はパン田さんが持つとされていた訳ですから、カラス田工務店もそれに従って所有権を持つことは出来ないとされました。
関連条文は?
第242条
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
第246条
1.他人の動産に工作を加えた者があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
第248条
第242条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第703条及び第704条の規定に従い、その償金を請求することができる。
第632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
第704条
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。