平成18年3月30日 建築物撤去等請求事件 最高裁第一小法廷判決
ポイントは?
景観というのは、住人にとってはとても大事なものだと思います。とはいえ、景観という利益を法律で保護する必要があるのかという疑問も出てきます。景観を守るということは、景観を守るために犠牲になる土地も出てくる訳です。つまり、他人の景観を守るために、自分の財産である土地の利用を制限される場面も出てくるのです。自分の住む地域の景観が大事と思う人がいるのは当然のことですが、自分の土地を他人が好む景観のために、利用を制限されてしまうことを嫌がる人がいるのも当然のことです。
また、景観を侵害する行為が不法行為になることがあるとしても、その線引きはどこでされるのか?という問題や、そもそも景観という利益に法律的な価値があるのかどうかなどが論点となる訴訟となったのです。
判決では、景観について客観的価値があると認めて、良い景観から得られる利益は法律上保護に値するとしました。ただし、景観権という権利まで認めることは出来ないとも判断しました。その上で、景観に対する侵害行為が不法行為になる場合について、次の枠組みを提示しました。
・景観利益の性質や内容、地域環境、侵害行為の程度などを総合的に検討して判断する必要がある
・侵害行為が法律や条例に違反する場合や、公序良俗違反や権利濫用に該当する場合は不法行為に該当する
上記の要件を検討した上で、カラス地所の建設したマンションはいずれにも該当しないことから不法行為には該当しないとしました。
景観利益を侵害されても生活妨害にはならないし、健康被害も出ないにも関わらず、景観を守るために他人の財産権に規制をすることになるので、それは民主的に決められる条例や行政法規に委ねるのが基本になるということです。
国立マンション訴訟は、結果として住民側敗訴で終りましたが地裁では、建築済みのマンションの一定の高さ以上について撤去命令が出るなど相当なインパクトを残した裁判となります。また、後に元市長の責任追及なども行われて元市長個人に巨額の賠償責任が発生するなどの訴訟にも繋がりました。
関連条文は?
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。