平成12年2月29日 損害賠償請求上告、同附帯上告事件 最高裁第三小法廷判決
*実際の事例では、手術を受けた女性は一審判決後に死亡し、遺族が訴訟を継続しています。また、医者による説明は女性の夫、子供にも行われていたなどの事情があります。
ポイントは?
医師が患者の命を救おうとするのは当たり前のことです。職業上の倫理的な問題、個人的な責任感だけではなく、助ける命を助けないとなると、それはそれで法的に責任追及されるかもしれないというリスクもあるのですから、医師が出来る手段を全て尽くそうとするのは当然のことです。
しかし、患者の側には様々な事情から行われる治療を自分で選択したいという考えもあるでしょう。
マンガの事例では、宗教上の理由(エホバの証人は輸血治療を否定している)から輸血を拒否しているのですが、パン美さんの場合は命の危険があったとしても絶対的に輸血を拒否するという【絶対的無輸血】を希望していたのです。
牛田病院の牛田医師は、無輸血での手術経験はあったようです。しかし、無輸血での手術を絶対としている訳ではなく、病院自体の方針は輸血以外に救命手段が無い場合は、患者の意思に関わらず輸血をするという【相対的無輸血】というものだったのです。
牛田さんは、パン美さんに万が一の場合は輸血を行うということを伝えましたが、それは拒否されていますし、病院の方針である【相対的無輸血】については伝えていませんでした。
以上のような事情があった上で、輸血が行われたことで争いになったのです。
判決では、輸血を拒否する明確な意思を持っている場合は、人格権の一つとして尊重する必要があり、牛田さんは病院の【相対的無輸血】という方針を伝えた上で、手術を受けるかどうかをパン美さんの選択に委ねる必要があったと判断しました。その上で、パン美さんの意思決定する権利を奪ったことは、人格権を侵害することになるとして牛田病院に慰謝料の支払を命じました。
関連条文は?
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第710条
条他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。