昭和43年3月15日 損害賠償請求事件 最高裁 第二小法廷判決
*実際の事例では、パン田さんとカラス田さんが示談をした後に、国がパン田さんに保険給付を行い、それに基づき国がカラス田さんに求償を行ったものとなります。
ポイントは?
交通事故に限らず、不法行為で被害を受けた人は加害者に損害賠償請求をすることが出来ます。そして、双方で支払う金額などについて合意が出来れば、示談書を作ることになります。
示談書は起きた問題について、全てが解決したことを約束するために「これで解決したから、今後は一切の金銭を請求しない」というような文言を入れるのが一般的です。これを清算条項と言います。
マンガの事例も示談書に清算条項を入れていて、パン田さんとカラス田さんは全てを解決したことにするという約束をしていたのです。「全てを解決したこと」になるのですから、パン田さんに示談金以上の損害が出たとしても、パン田さんは追加の請求は出来ないのが基本となる訳です。
ところが、パン田さんの場合は示談をしたときにゆっくり考える時間も無かったし、全治15週間程度の怪我という認識しか持っていない状況だったのです。そして、示談後に全治15週間のはずが、全治17ヶ月とかなり重い怪我であることが判明して、更に後遺症まで残ることになってしまったのです。
こうなるとパン田さんからすると、そもそもの示談の前提となる自分の怪我や後遺症の状況がまったく異なるものになってきますので、当初の示談金で納得出来る訳がありません。しかし、カラス田さんからすると既に解決済みとして示談をしているのですから、追加で損害賠償をするのは納得出来ないでしょう。
判決では、全損害を把握するのが難しい状況で、急いで少額の示談金を受け取っただけの場合は、示談当時予想していた損害についてのみ示談が成立したと考えるべきと判断しました。つまり、示談当時予想出来なかった怪我の重症化や、後遺症が発生した場合は、示談をしていたとしても、損害賠償請求権を放棄したとはされずに、追加で損害賠償請求が認められるということです。
ただし、判決では示談をした場合は、その後に示談金以上の損害が出たとしても、追加の請求は行えないのが基本になるとも指摘している点に注意する必要があります。示談をしたときは、それで全てが解決したものとして、追加の請求は行えないのが原則で追加の請求が認められるには、今回のマンガのような事情が必要になると覚えておきましょう。
ちなみに、示談をしたときに示談書を作るのは必須ではありません。示談(和解)は当事者の合意だけで成立します。その合意内容を明確にするために作成するのが示談書になるということです。
関連条文は?
第695条
和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
第696条
当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。