昭和31年2月21日 離婚並びに慰謝料請求事件 最高裁 第三小法廷判決
*実際の事例では、パン太さんは戦争に出征し、その間にパン乃とパン子の関係が悪化し、パン太さんの復員後もその関係が継続しています。また、パン子さんは別居後に妊娠が判明して離婚要求を拒否していたという事情もあります。
ポイントは?
離婚をするときは慰謝料だけではなく、財産分与の問題も絡んでくることが多いです。財産分与はざっくりと言えば、婚姻生活中に築いた財産を分けるものです。それに対して、慰謝料は離婚に至る原因を作ったことに対して支払われるものです。
問題をややこしくしているのは、財産分与の金額などを決める方法として民法には「一切の事情を考慮する」と書かれているためです。
「一切の事情を考慮する」のであれば、慰謝料の問題も財産分与に含めて考えれば良いし、財産分与とは別に慰謝料請求権まで認めなくても良いだろうとパン太さんは主張しているのです。ただし、パン太さんはどのような場合にも慰謝料が必要ないと言っている訳ではなく、慰謝料請求が認められるのは「身体・自由・名誉」に関して重大な侵害がある場合だけに限られるべきだと主張したのです。
判決では、財産分与と慰謝料はそもそもが性質が違うものであって、パン子さんが選択して請求できるとしました。ただし、財産分与と慰謝料は密接な関係にあるとして、財産分与の金額などを定めるときの「一切の事情を考慮する」には、慰謝料の発生原因を作った事情も含まれるとも指摘しました。その上で、慰謝料請求が「身体・自由・名誉」に関して重大な侵害がある場合だけに限定される必要もないとして、パン子さんは財産分与請求をした訳でもなく慰謝料請求だけをしていることから、パン子さんの慰謝料請求は認められると判断しました。
ちなみに、財産分与について金額などが確定した後に、後から慰謝料請求ができるのかについては、マンガの事例とは別となる訴訟によって財産分与に慰謝料を含める意図があったり、被害を受けた側の精神的損害を補填するに至っていない場合は、慰謝料請求が認められるとしています。
関連条文は?
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第768条
1.協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2.前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3.前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。