昭和53年12月20日 登記手続等請求事件 最高裁 大法廷 判決
*実際の事例では、相続人・不動産の数が異なります。また、パン子さんはパン太さんによる単独の相続登記が行われた後に、遺産分割調停の申立てを行っています。
ポイントは?
民法には相続回復請求権をする場合について、次の規定があります。
「相続回復の請求権は、相続人が相続権を侵害されたって知ったときから5年間で時効になっちゃうよ。相続開始のときから20年経過しても同じで時効になるよ。」
相続回復請求というのは、本来は相続人ではない人(表見相続人)によって、相続人としての地位を失った人が、その地位を回復させるために使われるものです。
マンガの事例のパン太さんとパン子さんは、相続財産をわけるときにパン太さんが暴走しちゃっただけで、パン太さんは相続人です。パン子さんは、相続人ではない人に相続人の地位を奪われたというわけではないのです。
そこで、パン子さんからすると、相続回復請求をしたいのではなくて、共有物であるアパートを勝手に登記するとか余計なこと(妨害)をするなと、所有権(共有持分権)に基づいて請求しているというわけです。
そして、所有権に基づく請求に時効は関係ありません。
こんな感じで、相続回復請求になるから5年で時効だと主張するパン太さんと、相続回復請求ではなくて所有権に基づいた請求だと主張するパン子さんとの間で争いになったのです。
判決では、相続回復請求は適用されないとして、パン太さんによる時効の援用を認めませんでした。
ただし、共有相続人間でも相続回復請求が認められるケースもあるとしています。例えば、パン太さんがパン子さんは相続人じゃないと信じていて、さらに信じて当然の事情があるような場合なら相続回復請求の規定が適用されてパン太さんが時効を援用できるとしました。
ちょっとわかり辛いかもしれませんが、共同相続人の間でのもめ事で相続回復請求権の時効が適用されるのは限定的な場合にだけになるということになります。パン太さんのように、他に相続人がいることを知っているような場合は時効の対象にはならないということです。
関連条文は?
第884条
相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。