昭和42年7月21日 家屋明渡請求事件 最高裁 第二小法廷判決
ポイントは?
民法162条には
「“他人の物”を占有したときは、10年で自分の所有物になるよ。」
と規定されています。
法律にははっきりと“他人の物”と書かれているのですから、パン田さんは10年間その家に住んだ(占有)したとしても、時効取得の対象外になるというのが素直な法律の読み方になると思います。
ところが、パン田さんは自分の物でも時効取得は成立するとして争ったのです。
判決では、「民法162条が時効取得の対象物を他人の物としたのは、通常の場合において、自己の物について取得時効を援用することは無意味であるからにほかならないのであって、同条は、自己の物について取得時効の援用を許さない主旨ではない」と判断しました。
つまり、普通は他人の物を取得するんだから、それを素直に書いただけで、その意味するところは自分の物だからといって時効取得できないという意味ではないと言ったのです。
この件に限らず、登記をしていないために所有権があるかどうかを立証するのが難しい場合もあるでしょう。そのような時に自分の物を時効取得することに意味が出てくるし、それは時効制度の趣旨にも反しないということです。
関連条文は?
第162条
1.20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2.10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。