昭和36年7月19日 詐害行為取消請求事件 最高裁 大法廷
*実際の事例では、家の価格や詐害行為取消の範囲について審理するように高裁へ破棄差戻しとしています。 また、カラス田さんが営んでいた事業が“饅頭屋”というのは架空の設定です。
ポイントは?
詐害行為取消権について過去の判例で「守る権利が金銭債権のときだけが対象になる」というものがありました。
今回の事例では、パン田さんはハムちゃんに対して「家の登記名義をカラス田さんに戻して!」という請求をしたというものです。
元々パン田さんはカラス田さんに対して「家をちょうだい!」と言える権利を持っていたのです。こういった家などの特定のものを請求するのを“特定物債権”と言います。そして、これがパン田さんが行使した詐害行為取消権で守るべき自分の権利(被保全債権)という訳です。
こういった被保全債権が特定物債権という場合は、過去の判例では詐害行為取消権を行使できないというものがあったので争いになってしまったのです。
そして、この問題が更に複雑なのが、カラス田さんは牛田さんにもお金を返す必要があって、更に家に抵当権まで設定されていのですね。カラス田さんは牛田さんにお金を返す代わりに家を渡したのですが、こういった返済方法を“代物弁済”と言います。詐害行為取消権を行使したとして、この代物弁済はどうなるのか?という論点もあったのです。
判決では、以下のように判断をしました。
・家を要求する権利を守るため(特定物債権=被保全債権)に詐害行為取消権は使える
・家の価値10万円から牛田さんが返してもらうお金8万円(抵当権でカバーされるお金)を引いた、残り2万円の部分だけ取消できる
・家は分割できないので、金銭で請求すればいいでしょ。
というものです。
なぜ特定物債権が被保全債権の場合でも、詐害行為取消権が使えるのか?という点については… パン田さんがもし家を引き渡してもらえない場合は、金銭で解決するために損害賠償請求をすることが出来ます。結局のところ損害賠償請求という金銭で解決する問題になるのだから、特定物債権の場合でも詐害行為取消権を使えるとされました。
関連条文は?
第424条
1.債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2.前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。