平成8年10月14日 建物収去土地明渡請求事件 第二小法廷判決
*実際の事例では、経営者が変わったことにより信頼関係が悪化したかどうか、その他の事情も含めて契約解除を認めるべきかどうかを判断するために破棄差戻しとされています。
ポイントは?
土地に限らずですが、賃貸借契約というのは貸主の承諾を得ないで、転貸したり、勝手に使わせたりしたらいけないとされています。そして、貸主は承諾をしていないのに転貸されたり、賃借権を譲渡されたりした場合は、賃貸借契約を解除出来ることになります。
今回の事例では、土地を借りたパン田一家運送会社が家族経営の会社なのに、その家族が会社の株を全て売ってしまって(実際の事例では有限会社)、別家族が経営をすることになってしまっています。つまり、会社自体は同じだけど、その会社を構成する家族が入れ替わってしまった状態です。
カラス田さんからすると、家族経営の会社でパン田さん一家が経営していると思っていたのに、まったく知らない牛田一家が経営をしているとなると、いくら会社名義での賃貸借契約とは言っても、賃借権を無断で譲渡されたと思ってしまったとしてもしょうがない気もしてしまいます。
判決では、経営者が変わったとしても会社が同じである以上は、賃借権の無断譲渡にはならないと判断しました。これは大きな会社でも、家族経営をしているような規模の小さな会社でも結論は変わりません。会社には法人格(人間言う人格)があるのに、その法人格を無視するようなことは出来ないという訳です。
ただし、会社が活動していなくて、法人格が形骸化しているような場合は別ともしています。また、経営者が交代した事実から信頼関係が悪化したり、それ以外の事情も含めて契約解除が認められる場合もあるとされています。ここは、ちょっと分かり辛い部分かもしれませんが、賃借権の無断譲渡による契約解除は認められないとしても、経営者交代という事実から信頼関係が悪化したような場合は契約解除の要素として認められることもあるということです。
関連条文は?
第601条
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
第612条
1.賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2.賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。