平成9年9月9日 損害賠償請求事件 最高裁第三小法廷判決
*実際の事例では、損害賠償を命じたのではなく破棄差戻しとしています。また、いわゆる「ロス疑惑」と呼ばれる銃撃事件について犯人であるかのように報道された人物は無罪判決を受けています。
ポイントは?
マンガの事例は、いわゆるロス疑惑と言われる事件を題材にしたものとなります。しかし、ロス疑惑の真相は何なのか、真実は何なのか?は今回の主題となるところではありません。
一連の疑惑をかけられて、まるで犯罪者であることが確定したかのようにされる報道が、名誉棄損に該当するのかどうかが争われたものなのです。
名誉棄損と一口にいっても、ある事実を暴露するような【事実の適示】と、ある事実を元にした【論評・意見】では、論評・意見のほうが許される場面が多くなります。論評・意見をあまりに厳しく違法とすると、表現の自由が守られないことにも繋がるからです。しかし、論評・意見がどんな場合に違法となるのかという問題や、事実の適示なのか論評・意見のどちらなのか判断が難しい場合もあります。
また、元となる事実が報道で全国的に知られるような状況になっている場合は、周知されていることを理由に、確かに真実であると信じる理由になるのかという問題もあります。
判決では、論評・意見は公共の利害に関することで、その前提となる事実が真実であるという証明があったり、真実であると信じたことに相当の理由があれば違法性は無いとしました。その上で、週刊パン潮の報道に関しては、多くの会社が報道して全国的に周知されているような状況だとしても、そのことが事実関係が真実であると信じた相当の理由にはならないと判断しました。また、事実の適示なのか論評・意見なのかの判断は、「一般の読者の普通の注意と読み方を基準」とするとしました。そして、パンダ新聞の記事に関しては前後の文脈などから事実の適示になると判断しました。
パンダ新聞の見出しの一部で<ハムちゃんは極悪人、死刑よ>というものがありましたが、これはハムちゃんの一連の疑惑に基づく事実を評価して、【論評・意見】をしているようにも見えるのですが、前後の文脈などから「ハムちゃんはこんな悪いことしたよ」と【事実を適示】していると理解できる面もあるでしょう。このあたりの微妙な判断は一般の読者の感覚を基準にすることを明確にしたという訳です。
関連条文は?
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第710条
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
第723条
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。