昭和45年11月24日 離婚請求事件 最高裁 第三小法廷判決
*実際の事例当時は成年後見制度はなく、パン子さんは成年被後見人の審判ではなく禁治産宣告を受けています。
ポイントは?
夫婦が離婚を考えたときに、お互いに離婚をすることを納得している場合は協議離婚という形で、役所に離婚届を出すだけで簡単に離婚を成立させることが出来ます。
ところが、夫婦の片方だけが離婚をしたくて、もう片方が離婚を拒否している場合は裁判所が離婚を認めるかどうかを判断することになります。
民法では、裁判所が精神疾患を理由に離婚を訴えていい場合として、次のように規定しています。
「重症の精神病で回復する見込みがないとき」
しかし、これだけで離婚を認めると精神疾患になった配偶者にとっては酷な結果となります。そこで、過去の判例では「今後の療養と生活について出来る限りの具体的方途の見込みがついた」場合だけ離婚を認めるという判断がされていたのです。
マンガの事例では、パン子さんの後見人となったパン八さんは、重度の統合失調症になったパン子さんの今後について、具体的方途の見込みも付いていないのに離婚を認めていい訳がないと主張しています。
離婚をしたい夫のパン太さんは、過去の治療費や生活費を負担していて、更に将来の療養費についても金額は提示していないにしても、可能な範囲で支払いをしていくつもりなのだから、離婚は認められるべきだと主張しているのです。
判決では、パン子さんの精神疾患は回復の見込みがないものと指摘して、パン太さんが過去に治療費などを負担していたこと、将来的な負担も約束していることから、離婚に向けた障害は存在しないと判断しました。つまり、離婚を認めたということです。
将来の療養費などの負担を約束しているだけで、「具体的方途の見込みがついた」とするのは無理がある気がします。しかし、この判決はパン太さんが過去の治療費等の支払をきちんとしていることも踏まえて、こういった判断がされたものになるようです。過去に何もしていなくて、信用を積み上げていない人が、「将来はちゃんとするから」と言っても具体的方途の見込みがついたとはされないと考えたほうが良いでしょう。
関連条文は?
第770条
1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2.裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。